==>[J-20]淫魔姉妹初登場回(全年齢版)
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ジャック・インザパンドラ, 八尺8r
とある住宅。城とも言っていいほどの豪華な作りのその屋敷に、男が住んでいた。 財に恵まれ、使用人を雇うほどの家だったが、男は早くに妻に先立たれ、使用人も次々に失踪。 一人。残った男は、いつしか“青髭”と呼ばれるようになった。 ある日、青髭は一人の女性と知り合う。 青髭は女を屋敷に住まわせた。 そして数日。 女を見る者はいなくなった。 いぶかしんだその女の妹が、青髭の屋敷を尋ねる。独りになってしまったと嘆く妹に、青髭は良ければ家に住むと良いと言い、鍵の束を預けた。 「部屋は自由に使うといい。でも、いいかい。この金の鍵が合う部屋にだけは、決して入ってはいけないよ」 そう言って、青髭は仕事へ出かけた。 妹は、姉を探して部屋をまわり。そして最後に、地下室に辿り着いた。 鍵はすべて使い、残ったのは金の鍵のみ。 妹は迷ったが、鍵を開けた。 とたん。生臭い風が流れ、妹は地下室の階段を転げ落ちてしまった。 足をくじいた妹は、それでも薄暗い地下室を手さぐりで進む。 すると。 ぬるり。 湿った、粘つくような液体の感触。 直後、明かりが灯り。 「おねえちゃん!!」 腹を裂かれ、内臓を取り出された、姉が居た。 先ほど触ったのは、姉の血液だったのだ。 「やれやれ。見てしまったんだね」 現れたのは、青髭だ。明かりを点けた彼は、しかし入り口から動かない。ただ、部屋を見回す。そこには、はく製となった女たちが居た。 「どの女も私を裏切ってくれる……本当に……どの女も……」 嘆くというよりは、あきれた調子で彼は言い。 「お姉ちゃんッ! 起きてよおねぇちゃんっ!!」 「安心したまえ。周りの女と同じように、綺麗にしてあげよう。――二度と、私を裏切らないよう……に」 青髭の言葉が止まった。それは。 「あ、よかったー。お姉ちゃん、“起きたぁ”」 確かに腹を裂いた彼女の姉――サーキュレット・サキュバスが起き上ったからだった。 ○―― 青髭は混乱していた。 確かに、あの女は殺したはずだ。 約束を破り、この部屋を見たため、首を絞めた。 それだけなら気絶していただけかもしれない。 だが、彼女は、腹を裂き、内臓を取り出し、血抜きの最中だったのだ。殺したのだって数日前だ。 「なんだ……なんなのだ!? 夢でも見ているのか!?」 その言葉に、サーキュレット・サキュバスは笑い。 「そうですわね。今まで大変おいしくいただきましたわ。あなたとの“淫夢”。でも、ここから先は――」 指を鳴らせば、明かりが消える。 ひぃ、と青髭がドアの取っ手を握るが、それはぐにゃりとした生暖かい感触。 よく覚えている。 内臓だ。 指の音がもう一度鳴る。すると地下室は、鮮やかな肉や内臓に包まれた、肉壁に囲まれていた。 「“悪夢”かもしれませんわね……」 くらり。青髭はめまいとともに、地下室の床に転がった。痛みはない。やわらかい、温かい、肉壁だ。 「えー、おねーちゃん。かわいそうだよー。いーっぱい、いっーぱい幸せにしてあげて。いーっぱい、いっぱーぁい! ぐにゃんぐにゃんのどろっどろにしてあげないとー」 妹――ノイエン・サキュバスも、姉が生き返った姿を見たはずだ。それなのに、当たり前のように会話を続ける。 「何者だ……何者なんだ」 青髭の問いに。 「“欲望”を糧として闇に住まう者――そうですわね、“淫魔”と言えば、わかりやすいかしら?」 答えたその姿は。 捻じ曲がった角に、コウモリを思わせる翼、そして赤い瞳。 姉妹そろって、人ではないモノへと変異していた。 「しまいのいんまなんだよー。ねー?」 「でももう、夢も終わり。――なぜならあなたは気付いてしまったから」 どくり。と肉壁が鼓動した。 「胸の奥に潜む、燻る、その“欲望”に。“願い”に――」 サキュは一度手を合わせ、そして少しの隙間を作る。 「さぁ――あなたの“イデア”は、どんな形かしら?」 そして生まれた赤い魔法陣は青髭を包み――。 「――ッ」 杖が床を叩く硬い音と共に、砕け散った。 見れば、肉壁も消えている。 「現れましたわね。AAA=Jack」 「あなたが悪ささえしなければ、出る必要もありませんけどね」 新たな青い魔法陣が青髭を包む。同時、青髭は時が止まったかのように動かなくなった。 その背後に居たのは、白い帽子に白いコート、青い髪の少年。 AAA=Jack、名無しのジャックだ。 「それはこちらの台詞ですわ。あなたこそ、“パンドラの箱の鍵”を渡してしまえば、私だって悪さをしませんのに」 「そーだよーっ。ジャックのいぢわるーっ」 ジャックはふと、ノイに目を向け。 「こちらは?」 問いに、ノイはふわふわとした笑顔で頭に大きく「?」を作り。 「サキュおねぇちゃんの妹の、ノイエン・サキュバスだよー。なんでー?」 「……そうですか。確かに、“どこかで会ってた”かもしれませんね。ええ」 そのやり取りに、サキュはため息。 「話しを逸らすのはやめていただけます? 渡していただけないから。“鍵”を。でなければ、こうやって無理矢理こじ開けようとしてしまいますのよ? 意地悪なジャックのせいで」 ジャックは、ふん、と鼻で笑い。 「あのね」 一度消え。 「――あんまりナメた事ばかり言うもんじゃないわよ。この売女」 次に現れたのは、サキュの背後。それも、右手で持ったジャックナイフを、彼女の喉元に突き付けて、だ。 「いいわねぇ……滑らかな曲線。うらやましいわ」 左手で彼女の乳房をなぞり。 「――奪っちゃいたいくらい」 「アナタに用はないの。ジャックを出しなさい。このオカマ」 あらやだ。とジャック。 「ご存じアタシはジャック・ザ・リッパー。でもね、魂に性別なんて関係ないのよ?」 つ……とナイフを下へと動かし。次は胸元を横切るように一文字。 赤い、十字の様なキズが付く。 「お、おねぇちゃんっ」 「おっとー。ストップ。まわりよーくみてー、ノイちゃん」 ジャックの様子が一変。無邪気なものとなる。 言葉の通りに周りを見回すと、そこには大量のニンニクが、ノイを取り囲むように配置されていた。 「わ、わわわわわっ」 「たいへんだー。これじゃ出られないねー」 うんうん。と涙目のノイ。 「ぼくが出るの手伝ってあげるよ。でも、その代り、“約束”してね」 「うん、やくそくす――」 る。という前に。 「ノイ。落ち着きなさい。あなたは淫魔なのだから、ニンニクなんて効きませんわ」 ジャックに捕らわれたままのサキュがそう言うと、ノイもハッと気づき。 「ダマされた! ひどいよジャック!! 子供のくせにーっ」 ははは、ごめんね。とジャックは指を鳴らす。するとニンニクは炎に包まれた。 「さ、お詫びのしるしにお一つどうぞ」 そしてノイエンが「わーい」と程よく焼けたニンニクを口にした途端。 「うわーんっ」 中から十字架が出てきた。 「ごめんごめん。うっかり十字架入れちゃった。お詫びのしるしに“もういたずらしません”って約束したら、その十字架をとってお友達になってあげるね。僕の事、じゃっくんって呼んでもいいよ」 「うえーん。じゃっく~ん。もういたずらしま――」 約束しようとするノイに、サキュは呆れた調子で。 「ノイ、落ち着きなさい。二度も三度も騙されるものではありませんわ。――あなたも、うちの妹で遊ばないでいただけます? ジャック・オ・ランタン」 ジャックはサキュの乳房に当てた左手に力を込めて。 「子供のイタズラだよ」 「悪魔を騙して寿命まで生きた酒飲みが、よく言いますわ……」 やだなぁ。とジャックは笑い。 「魂に、年齢なんて関係ないよ」 「ふざけたことを……」 言えば、左手はサキュの皮膚に食い込むほど力を増し、サキュの顔がゆがむ。 ノイが姉を心配する声を上げるが、それをサキュは制し。 「いたぶったりせず、一気にイかせてほしいものですわ。――“魔界”へ」 そう。 「ええ、この気持ち。あの“青髭”さんのイデアにそっくり。だってあの人」 ふふ、と笑い。 「ノイ」 「うんっ。お姉ちゃんっ」 つんつんっと、ニンニクをつま先で転がして脱出したノイは、はく製にされた女たちの元へと飛んでいく。 そして。 「強い“欲望”。それは何も、生きた者だけにあるわけではありませんわ」 「ノイちゃんが、元気を分けてあげる」 言って。ノイエンが触れた女たちから、黒いモヤのようなものが立ち込め。 「――寄りて依りては燻る炎。闇より出でて無に帰す強き欲望よ」 “何か”の気配が、充満した。 「――そのイデアをあらわにしなさい!」 ――ねぇ。あなたは何になりたかった? ○―― 青髭は、止まった世界の中で、女たちを見ていた。 騙すことも、語ることもなく、ただ自分のものとなった女たち。 それが今、黒い獣のようなものになって、自分に迫ってきている。 ――ねぇ。あなたは。 青髭は思う。 ああ、これだ。と。 ――何になりたかったの? 女を殺している時の興奮。 はく製にしているまでの、その工程全て。 ずっと思っていたことがある。 ――何が、欲しかった? “殺されてはく製になるというのは、どんなものなのだろう” それが今――叶った。 ○―― 戦闘は一瞬だった。 召喚されたツヴァルシェントの一撃で、黒い獣は消えた。 代わりに、ツヴァルを召喚したことによって、青髭を守っていた魔法陣も消え。 「……これが望みとは、人間とは不思議なものです」 はく製になった青髭が残された。 淫魔姉妹もいつの間にか消えていて、残された動くものはジャックのみだ。 「状況は安定。これ以上の変貌もありませんね」 やれやれ。とジャックはため息。 「サーキュレット・サキュバスに……ノイエン・サキュバス。ですか……」 足元に落ちている、べったりと血の付いた金の鍵を拾い。 「“パンドラの箱の鍵”……あるのなら、さっさと渡したいものですよ」 地下室に鍵を掛けて。 そしてジャックも消え去った。